【中田漆木】重ねて、といで、また重ねる。日々の積み重ねが作る漆器

【中田漆木】重ねて、といで、また重ねる。日々の積み重ねが作る漆器

香川県高松市で親子3代に渡って漆器店を営む中田漆木にお伺いしました。今回お話をお聞きしたのは中田漆木とは別に、中田陽平個人としても栗林庵オンラインショップに出品いただいている中田陽平さん。

中田漆木

陽平さんは高校卒業後、現在お父様が代表を務める中田漆木に就職し、以来22年間(2022年現在)にわたって漆器製作に携わっておられます。現在は国の伝統工芸士(平成28年度認定)としても活動されており、学生や観光客向けへのワークショップ等を通じて香川漆器の魅力発信にも精力的に活動されています。今回はそんな陽平さんに漆器製作への想いや漆器の魅力について語っていただきました。

最初は漆器製作がしたくて中田漆木で働き始めたというよりは、高校卒業後の就職先として、実家が漆器店を営んでいたから漆器製作に携わることになった、と陽平さん。しかし、製作に携わるようになってからは漆の世界に魅了されていくことに。

「私自身高校を卒業して家業の漆器屋で仕事するようになり、これだけの工程を経て漆器が作られているのだと実感する事で漆器により興味を持つようになりました。」

中田漆木

陽平さんが中田漆木で働き始めたころには、拭き漆と呼ばれる技法が仕事の大部分を占めており、塗りの仕事はそこまで多くはなかったそうです。

拭き漆とは生漆(漆の木から採取した漆を濾して異物を取り除いたもの)を木地に刷り込み、それを拭き取る、その工程を何度か繰り返すことで、木地の木目を活かした艶のある木製品に仕上げる技法です。

また、当時は木彫教室が複数あり、そこから仕上げとして拭き漆の依頼が多く寄せられていたそうです。しかし、当時陽平さんは「その状態がずっと続くことはないだろう、木彫教室の先生も高齢化しいずれは引退される。お弟子さんがいらっしゃる場合もあるだろうけれど、生徒さんがそのまま教室に残られるとも限らない。」と考えていました。実際、当時から教室は減少し陽平さんの懸念は現実のものになってしまいました。
そこで、当時陽平さんは拭き漆だけでなく塗りの技術も必要だと考えていたそう。そんな折、一度、家を出て外で働いていらっしゃったお兄様の大輔さんが中田漆木に就職するために戻ってこられたことで、技術を学ぶため香川県漆芸研究所(以下、研究所)への入所を決意。昼間は研究所に通い、帰宅後は中田漆木の仕事をこなすという生活を送られたそうです。

「香川県漆芸研究所は、香川県の伝統漆芸や人間国宝の技法を受け継ぐ人材の育成を目指しています。」(香川県漆芸研究所HPより抜粋)
特に研究所では香川漆芸の3技法、蒟醬、彫漆、存清をメインとしており、これらは「彫る」ことをメインとした技法です。(技法の説明はこちらのページをご覧ください。)

中田漆木
蒟醤剣(きんまけん)や存清剣(ぞんせいけん)と呼ばれる道具。その名の通り蒟醤や存清の技法で用いる。剣先の形に応じて角剣や丸剣と呼び図案によって使い分ける。人によって持ち手には紐を巻いたり革布を巻いたりして持ちやすいようにする。

現在陽平さんは、研究所で学んだ技法を使用した商品も製作され、栗林庵へも納品いただいています。特に陽平さんは存清を専攻していたこともあり、現在も存清を使用した漆器製作をよくされているそうです。また、3技法とは別に香川県の代表的な技法である象谷塗の漆器もよく製作されています。(象谷塗についてもこちらのページをご覧ください。)

漆器製作をするにあたって心がけていることをお聞きすると、「ひとりひとりのお客様のご希望に合わせて既存の商品をご提案したり、木地からオーダーメイドできる事も含めて、できるだけ気に入って貰えるよう意識して製作しています。」そのために、「今も昔も根本は変わらないと思いますが、より漆の魅力をアピールできるように自分達の知識やできる事を更新していきたいと思っています。」と語ってくださいました。

そう語られた通り、栗林庵オンラインショップの企画「香川の漆作家特集 vol.4」では、香川県産にこだわった商品を出品いただきました。
「今回出品している品物は素材から香川県産にこだわっているので、菓子切りに使用している竹をさぬき市長尾地区から伐採してきたり、器も数少ない地元の木地師に依頼したりして製造しています。見た目にも素材がわかりやすい仕上げを施しているので、漆器が作られた時間を感じて頂きながら長く使って貰えれば嬉しく思います。」

中田漆木
竹箸用の竹。陽平さん自身で採取されて乾燥や加工を行う。竹箸にした際に節の位置が合うように数字を記載している。

他にもヤドン関連商品の製作や、日本最大の産地である香川県の手袋とのコラボ商品の製作もされており、伝統を大切にしながら新しいことにも挑戦されています。

取材を通じて、特に陽平さんが大切にされていると感じたのが、人と人との「つながり」や「コミュニケーション」ついてでした。漆器製作について考えようとすると、「伝統」や「技法」などに意識がいきがちですが、陽平さんのように生業として漆と向き合った時、漆器産業に限らず、ある種、仕事をする上で根本的な部分が非常に重要なのだと改めて感じました。

その一例が漆器には欠かせない素地の部分である木地製作に纏わるお話でした。先に今回の出品商品に関するこだわりのところで語ってくださっていますが、地元の木地師の方へ依頼されたというのも、県産品へのこだわりはもちろんのこと、何より製作にあたって密にやり取りができること、日頃から信頼関係を築けていることが大きいようでした。

木地製作を木地師にお願いする場合、図面を渡して希望の形に挽いていただくわけですが、県外の場合だとどうしても微妙な修正が難しく、また注文ロットも大きくなることに加え納品までに時間がかかることもある。その点で今お願いしている県内の木地師の方だと微妙な修正やロットでも相談がしやすいという強みがある。これは日頃から、仕事に限らず、ちょっとした世間話をするなど、信頼関係が築けていることが大きいと、陽平さんは仰っていました。また、これは木地師だけでなく他の部分に関しても、ふだんから作り手との横のつながりを持つことが重要であるとも語っておられました。

コミュニケーションの大切さは製作面だけでなく、販売の部分でも非常に重要だと陽平さん。展示会や直接工房に来られたお客様の声を聴き、そこからニーズを汲み取っていくことは製作の指針になる非常に重要な部分。オーダーメイドでご注文をお受けする場合には、お客様のイメージに沿えるよう密にやりとりをして、真にお客様が求めているものはなにかを知る必要がある。そのためにお客様とのコミュニケーションが重要になることは言うまでもない。その上で、自身の知識や技術に不足があれば要望に応えられるように勉強してアップデートしていく。その繰り返しだと仰っていました。

最後に陽平さんにとって漆器の魅力についてお聞きした。
「長く使うことができ、使っていくうちに表情が深くなる」、こういうのもなんですが、と前置きをされたうえで、「僕が作った漆器でなくてもよいので、しまいこまわずに普段から使ってほしい。額作品なら普段から飾って鑑賞してほしい。もちろん、(陽平さんが)製作した漆器を使っていただけると嬉しいですが」と笑顔で仰っていました。

漆器は修理や塗りなおしをすることで長く使うことができる。また、漆器は軽く熱が伝わりにくいため飯椀や汁椀としても非常に優れている。まさに普段使いにぴったりの食器だ。木目を活かした木のぬくもりを感じるものから、漆器のイメージカラーとも言えるシンプルな深みのある黒、加飾を施した華やかなものまで、自分のライフスタイルにあった漆器をぜひ普段の生活の中に取り入れてほしい。

中田漆木ではオーダーメイドだけでなく修理も請け負っている。漆器のことで困ったことがあれば、陽平さんはもちろん中田漆木に相談してみてほしい。

中田漆木
取材に伺ったのが丁度「たかまつ工芸ウィーク」の期間中だったためタペストリーを飾ってあった