【うちわ工房 竹】江戸時代から脈々と受け継がれる伝統の技、丸亀うちわ

【うちわ工房 竹】江戸時代から脈々と受け継がれる伝統の技、丸亀うちわ

「伊予竹に土佐紙貼りてあわ(阿波)ぐれば讃岐うちわで至極(四国)涼しい」

うちわ工房 竹
うちわ工房 竹

今回は「石垣の名城」として有名な丸亀城の敷地内にある「うちわ工房 竹」にお邪魔しました。(2023年1月現在、石垣は修復中です。)ここはうちわ職人の方達が自ら作ったうちわしか置いていないため、タイミングによっては実際の工芸士の方から直接買うことができるというお店です。

皆さんは日本全国で作られるうちわの国内シェアの9割が丸亀うちわであることをご存知でしょうか? 江戸時代初期には「丸亀うちわ」の技術は確立していたといわれ、金比羅参りのお土産として全国的に広がりました。
昨今、扇風機やエアコンなどの家電の発達に伴い、うちわを使用する機会が減っていますが、改めてうちわの良さを見つめ直してみてはいかがでしょうか。

まずは丸亀うちわの制作工程を見ていきましょう。

○木取り
水分につけて柔らかくしておいた真竹をうちわに合わせた幅に切ります。
この最初の作業の時点でどのようなうちわを作るかをあらかじめ決めた上で作業を始めます。

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○ふしはだけ
骨の上部の穂になる部分は3mmの厚さに削りますが、定規などで測ったりせずに長年の経験を踏まえ感覚を頼りに行います。 うちわ作りでは香川県産の真竹(まだけ)という種類の竹を使っています。竹の種類には他に孟宗竹(もうそうだけ)などがありますが、孟宗竹は厚みが15mm以上あり、たくさん削らないといけないため、丸亀うちわ作りには向かないそうです。(真竹の厚みは7mm程度) 他にも真竹は節と節の間隔が40cm程度と長いため、そういった要因もうちわ作りに向いているそうです。

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○割き(わき)
専用の割き機を使って、厚さ0.5mmの穂を34〜35本程度作ります。写真で見ると分かりにくいですが、わずかに位置をずらしながら刃をリズミカルに上下することで均等な厚さの竹の骨を作っていきます。
ちなみにこの割き機は大正2年に脇 竹治郎によって開発されました。この割き機が開発され、他の職人たちも広く使ったことによって、それまでと比べて飛躍的に大量生産が可能になりました。そう、この割き機が丸亀うちわがシェアを広げる大きな一因になったそうです。

うちわ工房 竹
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○もみ(もみおろし)
割きの作業で途中まで入れた切り込みをもみおろすことによって、切り込みを柄の根元まで均一に延長することができます。この作業は竹を水分につけ柔らかくした状態でないとできません。一見、割きの作業で根元まで切り込みをいれればいいと考えてしまいますが、そうすると竹の骨の1本1本が切れて、バラバラになってしまうため、うまくできないとのことでした。全ての作業はあるべくしてあるということを改めて知りました。
最終的には幅17mmの中に厚み0.5mmの穂が33~34本できます。

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○穴あけ ○柄削り ○編み
うちわの骨を扇形に開く役割の鎌を通すための穴を開けたり、柄を削り手に馴染む形状に調整する作業です。
「編み」の作業を行う人たちについては、「編み子」と呼ばれていて、昔は子供たちが作業を担うこともあったそうです。

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○付け
左右のバランスが崩れるとうちわとして形にならず、「付け」という作業はうちわを完成させる最後の大事な作業です。昔はこの作業をやる人を「付け師」と呼んでいたというほど、熟練した技術が必要になります。

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○貼り
まずは骨に糊をまんべんなく、次に紙の根元だけに糊を塗ります。夏は水分量を多くし、季節によって糊の濃度を変えるそうです。
和紙の位置を合わせたあと、たわしで優しく撫でることによって、空気を抜き、隙間なく紙を貼り付けます。
紙の間に空気が残っていると紙と穂が接着しないので気をつけます。
最後に日陰で自然乾燥させます。

うちわ工房 竹
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○たたき
うちわ作り体験では、はまぐり型と丸型のうち、好きな方を選べますが、伝統的なはまぐり型の方が表面積が大きく、仰いでみると風が冷たく感じました。
左右片側ずつ鎌をあてがって、木槌で力を込めて叩いて余分な部分を切り落とします。
栗林庵スタッフもこの工程を体験させていただきました。思いっきり力をこめて木槌でたたくのでストレス発散にも最適でした。(笑)

うちわ工房 竹
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○へり取り
「へり紙」と言われる5~7mmほどの細長い紙を3・4cmの間隔であてがってつまんで貼り付けていきます。この作業も体験させてもらいましたが、表裏で均等折って貼るのが難しく、慎重に作業するので時間がかかりました。
昔の職人はへり取りならへり取りを、と一人の職人が同じ作業を担当していたので、ヘリ取り専門の職人にかかると、くるっと回したかと思うともう終わっているほどあっというまに貼り付けられていたそうです。
こうして一つ一つの全ての作業を正確に丁寧に行うことで最終的に丸亀うちわが完成します。

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○丸亀うちわ
丸亀うちわの特徴は何ですかと尋ねると、伝統工芸士の大林 正春さんは「雄竹(おだけ)の平柄(ひらえ)」が丸亀うちわの原点である、と教えてくれました。雄竹とは直径の大きな品種の竹で、平柄とは持ち手の部分が平らということを指します。平柄だと割き機にかけることができ、そうすることによって作業効率が上がり量産ができるようになりました。明治時代に組合ができ、町全体としてうちわ作りに取り組んだところも丸亀うちわが全国的に普及した要因です。
「伊予竹に土佐紙貼りてあわ(阿波)ぐれば讃岐うちわで至極(四国)涼しい」
冒頭にも掲げたこの歌のように四国内で手に入る材料で作ることができたというのもここまで丸亀うちわが普及した一因です。

量産できるからこそ値段も抑えられ、丈夫で安い。過剰な装飾をこらしたものではなく、あくまでも日常の道具として丸亀うちわは始まりました。ただ、冒頭でも触れた通り、家電製品の普及にともない、実用品としての出番は少なくなっています。そのかわりに、家に飾って眺めたり、夏祭りで浴衣と合わせたりとファッションアイテムとして使われる方の比重が高くなってきているのを感じるそうです。これからはファッション性や装飾性の高いものに付加価値を見出すことができるような方向に力を入れたいと「うちわ工房 竹」代表の藤岡 陽子さんは語っていました。

藤岡さんはうちわ作りに携わる前は海外に生活の拠点があり、海外の文化に興味があったそうなのですが、日本の伝統工芸の良さに改めて気づくことになり、今は
「日本の伝統工芸に携わることができてとても充実しています。」
と心からおっしゃっていました。
伝統工芸士の川田久子さんは「竹を割って削って細工をするのが本当に楽しい」と目を輝かせていました。
みなさんの真っ直ぐなてらいのない言葉に、自分は心からそう思えることがあるだろうかと改めて見つめ直すきっかけになりました。
藤岡さんは以前、見学に来た小学生から言われて心に残った言葉があるそうです。
丸亀うちわについての説明を聞いたある小学生から(大切なのは)「歴史をつなぐってことですね。」という言葉を投げられました。それを聞いて藤岡さんは小学生から本質を突く言葉が出てきたことに感嘆し、なんとしてもこの伝統を途絶えさせてはいけないと心持ちを新たにしたそうです。今後の展望について藤岡さんは「子供の頃から丸亀うちわを身近に感じてもらい、海外にもアートとして受け入れられればとてもうれしい。」とおっしゃっていました。

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左から、川田さん(伝統工芸士)、藤岡さん(代表)、大林さん(伝統工芸士)

今回取材をしてみて、丸亀うちわは他の伝統的工芸品と比べても、技術技法講座を毎年行っており、後継者対策に力を入れているのが分かりました。お話を伺ってみると、伝統工芸士の方もこの講座を受講されてからうちわ作りを始めた方がほとんどでした。定年を迎えて始められた方や子育てが一段落してから始める方もいらっしゃいました。そういった様々なタイミングで始めやすいところも、うちわ作りに携わる方が多い理由なのかなと思いました。
また、関わる方もみなさま仲良くチームワークの良さも感じ、純粋にやりがいを感じている方が多いのも、丸亀うちわに魅力があってのことだと思います。
手仕事と自然の素材の味わい深さ、また、江戸時代から続く日本文化をこれから先の未来へとさらにつなぐことの意味を考えさせられる取材になりました。

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